実装ステップ
AI利用が急増するなか、企業のScope 2・3排出量の中に「AIモデルの使用電力」が無視できない規模で含まれるようになっている。Sustainable AI Groupが開発した「CLEER(Closed-model Latent Energy Estimation Range)」は、企業が利用する商用AIモデルのトークン使用量をエネルギー消費量・GHG排出量に換算する無償オープンツールである。
ステップ1: AI利用実態の把握
まず社内でのAIモデル利用状況を棚卸しする:
- 利用しているAIモデル一覧(OpenAI GPT系、Google Gemini、Microsoft Copilot等)
- 月次・年次のトークン使用量(API利用ログ、費用明細から推定)
- 主要な利用部門・ユースケースの特定
ステップ2: CLEERツールの適用
Sustainable AI Groupの方法論は「オープンソースモデルのエネルギー消費データ→クローズドモデルのプロキシ推定値」として構築されており:
- 利用モデルごとのトークン数を入力
- CLEERがエネルギー消費量(kWh)を推計
- グリッドの排出係数またはプロバイダー提供のエネルギーミックスに基づきCO2換算
ステップ3: カーボンアカウンティングシステムへの統合
EtsyはCLEERを既存のカーボン会計システムに統合し、定常的なAI排出量の計測を実現した。同様の統合パスとして:
- Watershedへの統合(同社は約800社が利用するカーボン管理ソフト。CLEER連携を開発中)
- 自社カーボン会計ダッシュボードへのAPIデータ連携
ステップ4: モデル選択の最適化
CLEERのデータは「モデルの選択でエネルギー消費量が30%以上変わる」ことを示している。これを活用し:
- 同等の出力品質で低エネルギーのモデルへの切り替え検討
- AI調達基準にエネルギー効率指標を追加
使うツール・標準
- CLEER(Sustainable AI Group、無償)
- Watershed(カーボン管理SaaS、CLEER統合対応予定)
- 参照枠組: GHGプロトコル Scope 2・Scope 3 Category 1(購入サービス)
- ISO 14064-1(組織レベルのGHG算定・報告)
成功のポイント
- トークン使用量ログの定期収集が基盤 — 月次でAPIプロバイダーの利用レポートを取得し、データを蓄積する
- モデル選択もGHG削減施策になる — 省エネモデルへの切り替えはコスト削減とGHG削減の両立
- ISSB開示でのAI排出量の扱いに先手を打つ — S2(気候関連開示)のScope 2/3の新カテゴリとして認識する動きが始まっている
日本企業への適用
日本企業のAI活用は急速に拡大しており、GXとDXの交差点に「AI排出量の開示義務」という新課題が浮上している。ISSBJに基づく開示でScope 2・3を報告する企業は、AIサービス利用に伴う電力消費をバリューチェーン排出量として扱うかどうかを判断する必要がある。CLEERのような無償ツールでまずデータを把握し、AI調達ポリシーに省エネ基準を盛り込むことで、先行する欧米企業との差別化が可能になる。
